ルター自伝

広島聖文舎の通信「広島聖文舎便り」には毎月、辻 学氏(広島大学教授、新約聖書学)による「研究室の書棚からおすすめの1冊」が載せられています。その内容をここでもご紹介します。

研究室の書棚からお薦めの1冊(49)
(復刊)藤田孫太郎編訳『ルター自伝』(新教新書276、2017年5月、1200円+税)

先々月のこの欄で、マルティン・ルターに関する本を3冊紹介しましたが、あとⅠ冊追加しておきます。ルターの思想を学ぶことも大事ですが、やはりルター自身について知っておくと、「信仰義認」の主張をめぐって交わされた論戦の中身に関する理解も深まろうというものです。その意味で、ルター自身が語った「卓上語録」(Tischreden)の中から自伝的な文章を集め、解説を加えたこの本は非常に参考になりますし、ルター自身が自分の活動についてどのように考えていたかがわかり、面白く読めます。(この本は、1959年に刊行されたものの再刊です。)
修道僧時代を回顧する第2章では、ルターが修道院に対して抱いていた批判的な見方が随所に現れており、ドミニコ会の説教修道僧ヨハネス・テッツェルに関する第7章以降は、免償符(本書では「免罪符」となっています)の問題をきっかけにしてルターが改革へと突き進んでいく中で、どのような思いを持っていたかがわかります。また、修道僧と修道女との結婚という、当時では「全く法外な事件」(145頁)であった、カタリーナ・フォン・ボラとの結婚については第12章で語られています。妻に対して、詩篇を熱心に読むよう教えるルターに対し、彼女はこう言ったそうです。「神のことばは飽きるほど聞いているし、毎日よく読んでもいます。またこのことについて多くのことを語ることもできます。でも神がなおこのことを欲したもうなら、わたしはこれに従いましょう」(139頁)。ルターはもちろんこれに不満だったようですが、現代に生きる我々からすると、ニヤリとしたくなる返事でもあります。一方、「子どもたち」(第13章)では、ルターが自分の子供たち(とりわけ早逝の娘エリザベートとマグダレーナ)に対して抱いていた思いが描かれ、心を打ちます。160頁ほどの新書なので、すぐに読めますが、ルターをより身近に感じられる1冊だと思います。ルターについて語る前の準備にどうぞ。(辻 学=広島大学教授、新約学)

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