宗教改革と現代 改革者たちの500年とこれから

広島聖文舎の通信「広島聖文舎便り」には毎月、辻 学氏(広島大学教授、新約聖書学)による「研究室の書棚からおすすめの1冊」が載せられています。その内容をここでもご紹介します。

研究室の書棚からお薦めの1冊(52)
『宗教改革と現代 改革者たちの500年とこれから』
(新教コイノーニア34、新教出版社、2017年9月、2200円+税)

500年目の宗教改革記念日も迫ってきた9月末、新教出版社から宗教改革をテーマにした論考集が出されました。雑誌『福音と世界』が半年の間組んだ特集「宗教改革500年」に寄せられた文章全てをまとめ、さらに書き下ろしの文章も4本加えています。
全体は、「義とは何か」「信徒と教職」「サクラメント」「結婚の変容」「正統と異端」「世界史の中で」の6章に分けられ、テーマごとにそれぞれ6~7本の論考が並んでいます。どのテーマも、聖書に遡って考察する文章、教会史的な意義を明らかにしようとする文章、そして現代の課題としてそのテーマを捉える文章が揃っており、「なぜいま宗教改革なのか」という問いが全編を共通する根底になっています。本書は、「宗教改革を単に500年前の史実として整理しようというのでなく、現代を生きる私たちの信仰・生活・社会に即したかたちで宗教改革とは何だったのかを問い、その本懐をあらためて引き受けなおそうという試み」(編集後記)で、まさに新教出版社らしい問いの立て方だと思いました。
読書会形式でテーマごとに皆で読むのもいいですし、聖書研究の一環として、聖書学関係の論考を読んでいくのもお勧めです。「新約聖書の『義認』」(吉田忍)や「新約聖書・初期キリスト教における『信徒』と『教職(制)』について」(村山盛葦)、また「聖書における結婚と独身」(澤村雅史)などは、それぞれの問題を考える上での出発点としてまず目を通したい文章です。「ルターの信仰義認論」(竹原創一)や「賜物と課題としての全信徒祭司性」(江藤直純)のような正攻法の文章は必読ですが、プロテスタント教会では説教に重点を置きすぎて、サクラメントの重要性が見失われていると「告発」する、「サクラメントの復権」(藤井創)も、教会のあり方を省みる上での大変重要な指摘であり、本書の狙いに合致した論考です。「宗教改革とオスマン帝国」の筆者、野々瀬浩司氏はベルン留学時代の仲間で、思わぬ「再会」を嬉しく、懐かしく感じました。(辻 学=広島大学教授、新約学)

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